年末、新幹線に乗る時に書店で見つけて買った。車内で読み始めたら、グングン読み進められてしまって降りるのが嫌だったくらい。ナイキという企業や製品は知っていても創業者ののことは全然知らなかったし、アメリカ人だからなのか人生をドラマティックに語るのがうまい。本としてよく仕上がっていた。
何より人物表現が豊か。私はナイキの創業者に対してスティーブ ジョブスやリチャード ブランソンみたいな変わり者で完璧主義、かつコカインをやっていた頃のアガシみたい破天荒な人だと勝手に思っていたんだけど、彼はオレゴンの熱心な陸上選手でスタンフォードのMBAと会計士の経験をもつごく普通の優秀な人物だったことに驚いた。そんな彼の、私が知りもしない青春時代の風景が映画を観ているかのように頭に浮かぶのよ。
他にも後にパートナーとなる陸上のコーチ、不運にも学生時代に車椅子生活になってしまった元スター選手、メール魔のセールス担当、切れ者の公認会計士、オニツカタイガーと戦った弁護士、日商岩井の日本人…ナイキファミリーとなった人々に会ってみたくなった。駅で買ったから日本語版だけど、どんな英語の表現を使っているのか知りたいくらい。
あと、日本人にとっては戦後から最初のオリンピックまでの東京の描写はおもしろいと思う。というか、ナイキがこんなに日本と縁のある企業だったことすら知らなかった。フィルが初めて東京に来た時に見えた廃墟がどこなのかは書かれていなかったけど、湾岸付近はまるごと暗闇だったらしい。あと、電車の中が汚いこと。他にも何かで読んだけど、ひと昔前の日本人は今の中国人と大差ないくらいゴミを散らかす人種だったらしいのが残念。
そして、オニツカタイガーはその頃から良いシューズを作っていて、アディダスは超巨大企業だったことをリアルに感じられた。ナイキは最初、オニツカタイガーをアメリカで売る会社だったんだね。フィルがアディダスを嫌っていることにも笑ったわ。それが活力になって今があるんだろうけど。
テニス選手との契約の話は当たり前に興味深かった。昨年フェドカップの試合中に暴言を繰り返して問題になったナスターゼに裏切られた話と、ウィンブルドンで高校生だったマッケンローに一目惚れした話。一押しされたのは他の選手だったのに「14番コートには近づかないでください。気性の荒い人物ですから」と言われて観に行ったマッケンローと即契約したんだって。
でも、本の中にある“負け犬”という表現はふさわしくないと思う。陸上のスター選手にはなれなかったし、途中銀行員に毎月詰め寄られていたけど、スタンフォードのMBAを持っていて長期の旅の途中に簡単に職を得られるくらいの価値がある人だからね。
それでも何でも、引越のために片付けをしているんだけど、私はオレンジ色が嫌いなのにも関わらずナイキの箱が本当にたくさんある。何もないところから、世の中の誰もが知る物を作り上げるのはどんな気分なんだろうとワクワクしてしまった。
読んでみたくなりました。ちょうど本を探していたので良かった!
情報の豊富さと辛めのコメント、ウィットに富んだHPで楽しく読ませてもらってます。
装丁の紙がプロスタッフっぽいブラックのマットなので、ポテトチップを食べながらの読書はお気をつけください!
辛めですかね?うれしいコメントありがとうございます!